July 25, 2012
{block:} kazesaeki:

 1921年生まれ、今年の2月、90歳で亡くなった石元泰博さん。85歳の時、「シブヤ、シブヤ」という写真集が出したが、その撮影の為、自宅から渋谷に向かう山の手線で、カメラを首からぶらさげて独りで立っている石元さんの姿があった。静かで柔らかいのだけど、強いオーラが漂っている佇まいは剣術の達人のようで、得も言われぬ格好良さがあった。石元さんは、戦後、「シカゴ シカゴ」という伝説的な写真集で、海外でよく知られる存在となり、日本でも都市写真の草分けと言われたりする。石元さんの写真は、日常のどこにでもあるような風景を撮っても、完璧な構図のなかに、完璧なシーンが写っている。渋谷のシリーズなどは、自分のお腹のあたりにカメラを抱えてノーファインダーで撮っているらしいのだが、撮られた写真はトリミングの必要のない完璧な構図になっている。また、偶然とは思えないほど、タイミングの良すぎる状況が写し込まれていたりする。そのあたりの話しをうかがうと、シャッターを切る直前に、撮られる「絵」が脳裏に浮かぶのだそうだ。確かに、目で見て確認してシャッターチャンスだと意識してからシャッターを押しても間に合わない。撮る前に、その「絵」がそこに現れることを察知して、無意識が待ちかまえているからこそ、間に合う。
 石元さんが撮影した「桂離宮」や「伊勢神宮」にしても、分厚い写真集の中に納められている全ての写真が完璧なので、普通の写真家が見たら、何年も通い続けて撮影したものと思うに違いない。しかし実際は、そうではないのだ。伊勢神宮は、遷宮という20年に一度の特別な機会に新しい宮に神が移られる直前だけ撮影許可が下りるので、外宮と内宮、それぞれ三日間ずつだけだ。しかも、その貴重な撮影機会のため、テレビなどのムービーもあれば、他の写真家なども複数いる。そうした制約のなかで、石元さんは伊勢神宮を撮り、あの分厚い写真集を発行した。しかも、他の写真家は、その20年前の遷宮から取り続けているので優先順位が高く、その人たちが撮った後の残り時間だけが石元さんに与えられた。伊勢神宮の中を係の人に案内されながら、撮影ポイントごとに他の写真家が三脚の位置をあれこれ変えながら時間をかけて撮っている間、石元さんはじっと待ち続け、自分の番になったら、迷うことなく一直線に自分の”ポイント”に行き、そこで、”パシャ”とシャッターを切ってすぐに戻ってくる。その僅かな時間の”パシャ”で撮られた写真が、構図も光も、他の写真家の写真を圧倒しているのだから凄い。また、桂離宮にしても、撮影の為に借り切ったわけではない。普通に観光客が入れ替わり立ち替わり入ってくる状況のなかで撮っている。三脚を立て、ライティングをして、撮影しようとした瞬間に観光客が近づいてくると、全てを撤収して、自分たちは隠れる。三脚とか汚い恰好の写真家など、観光客は桂離宮で見たくないだろうという配慮だ。そして、観光客が行ってしまってから、準備をはじめる。もしそこにまた観光客が来たら同じことの繰り返し。よくもまあ緊張感をとぎらせることなく撮影できたものだと感心してしまう。つまり、石元さんのように超一流の世界は、「環境や条件がどうのこうの」などと我ら凡人の吐く台詞とは別のところにあるものなのだ。「見る。→思う(分別する)。反応する。」というのは、意識に支配された我々凡人の世界だ。石元さんは、おそらく無意識のうちに世界を先取りして、それを、我々の眼前に差し出している。何ら気負う事無く、自己顕示欲もなく。
 石元さんが亡くなる前、戦後東京を50年間撮り続けた貴重な写真、2000枚を見せてもらった。ほとんどが未発表のものだった。「なぜ、これだけのものが未発表なんですか?」と問うと、「今まで、誰も見せてくれと言ってこなかったからや」との返事だった。
 それらの写真は、たっぷり50ページを割いて、風の旅人の36号で紹介させていただいた。これはその一つ。

kazesaeki:

 1921年生まれ、今年の2月、90歳で亡くなった石元泰博さん。85歳の時、「シブヤ、シブヤ」という写真集が出したが、その撮影の為、自宅から渋谷に向かう山の手線で、カメラを首からぶらさげて独りで立っている石元さんの姿があった。静かで柔らかいのだけど、強いオーラが漂っている佇まいは剣術の達人のようで、得も言われぬ格好良さがあった。石元さんは、戦後、「シカゴ シカゴ」という伝説的な写真集で、海外でよく知られる存在となり、日本でも都市写真の草分けと言われたりする。石元さんの写真は、日常のどこにでもあるような風景を撮っても、完璧な構図のなかに、完璧なシーンが写っている。渋谷のシリーズなどは、自分のお腹のあたりにカメラを抱えてノーファインダーで撮っているらしいのだが、撮られた写真はトリミングの必要のない完璧な構図になっている。また、偶然とは思えないほど、タイミングの良すぎる状況が写し込まれていたりする。そのあたりの話しをうかがうと、シャッターを切る直前に、撮られる「絵」が脳裏に浮かぶのだそうだ。確かに、目で見て確認してシャッターチャンスだと意識してからシャッターを押しても間に合わない。撮る前に、その「絵」がそこに現れることを察知して、無意識が待ちかまえているからこそ、間に合う。

 石元さんが撮影した「桂離宮」や「伊勢神宮」にしても、分厚い写真集の中に納められている全ての写真が完璧なので、普通の写真家が見たら、何年も通い続けて撮影したものと思うに違いない。しかし実際は、そうではないのだ。伊勢神宮は、遷宮という20年に一度の特別な機会に新しい宮に神が移られる直前だけ撮影許可が下りるので、外宮と内宮、それぞれ三日間ずつだけだ。しかも、その貴重な撮影機会のため、テレビなどのムービーもあれば、他の写真家なども複数いる。そうした制約のなかで、石元さんは伊勢神宮を撮り、あの分厚い写真集を発行した。しかも、他の写真家は、その20年前の遷宮から取り続けているので優先順位が高く、その人たちが撮った後の残り時間だけが石元さんに与えられた。伊勢神宮の中を係の人に案内されながら、撮影ポイントごとに他の写真家が三脚の位置をあれこれ変えながら時間をかけて撮っている間、石元さんはじっと待ち続け、自分の番になったら、迷うことなく一直線に自分の”ポイント”に行き、そこで、”パシャ”とシャッターを切ってすぐに戻ってくる。その僅かな時間の”パシャ”で撮られた写真が、構図も光も、他の写真家の写真を圧倒しているのだから凄い。また、桂離宮にしても、撮影の為に借り切ったわけではない。普通に観光客が入れ替わり立ち替わり入ってくる状況のなかで撮っている。三脚を立て、ライティングをして、撮影しようとした瞬間に観光客が近づいてくると、全てを撤収して、自分たちは隠れる。三脚とか汚い恰好の写真家など、観光客は桂離宮で見たくないだろうという配慮だ。そして、観光客が行ってしまってから、準備をはじめる。もしそこにまた観光客が来たら同じことの繰り返し。よくもまあ緊張感をとぎらせることなく撮影できたものだと感心してしまう。つまり、石元さんのように超一流の世界は、「環境や条件がどうのこうの」などと我ら凡人の吐く台詞とは別のところにあるものなのだ。「見る。→思う(分別する)。反応する。」というのは、意識に支配された我々凡人の世界だ。石元さんは、おそらく無意識のうちに世界を先取りして、それを、我々の眼前に差し出している。何ら気負う事無く、自己顕示欲もなく。

 石元さんが亡くなる前、戦後東京を50年間撮り続けた貴重な写真、2000枚を見せてもらった。ほとんどが未発表のものだった。「なぜ、これだけのものが未発表なんですか?」と問うと、「今まで、誰も見せてくれと言ってこなかったからや」との返事だった。

 それらの写真は、たっぷり50ページを割いて、風の旅人の36号で紹介させていただいた。これはその一つ。

(via magurohd)

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